「貸借対照表の表示」
2020年(令和2年)5月2日(最終更新2021年7月13日)
寺田 誠一(公認会計士・税理士)
・貸借対照表の区分
会社法上の貸借対照表は、通常、左右に表示されます。これを勘定式といいます。左側である借方には、資産が表示されます。右側である貸方には、負債と資本が表示されます。資本は、純資産の部という表示になりました。資産の合計金額は、必ず、負債と純資産の合計金額と一致します。
資産と負債は、流動と固定に区分されます。すなわち、資産は流動資産と固定資産に分かれ、負債は流動負債と固定負債に分かれます。流動と固定とを区分する基準については、後述します。
資産の部には、繰延資産が計上されることもあります。
固定資産については、有形固定資産・無形固定資産・投資その他の資産の3つにさらに細分化されます。
純資産の部は、株主資本、評価・換算差額等、新株予約権の3つに分かれます(中小企業では、ほとんど株主資本だけです。)。株主資本は、さらに、資本金、資本剰余金、利益剰余金、自己株式に分かれます(中小企業では、資本剰余金や自己株式が計上されることは少ないです。)。
資本剰余金は資本準備金とその他資本剰余金に、利益剰余金は利益準備金とその他利益剰余金に、それぞれ二分されます。その他利益剰余金は、内訳として、別途積立金、繰越利益剰余金などが表示されます。その他利益剰余金や繰越利益剰余金の金額が負となる場合には、マイナス残高として表示することになります。
・流動と固定の分類基準
流動と固定の分類基準には、正常営業循環基準と1年基準があります。
① 正常営業循環基準
正常営業循環基準とは、その企業の正常な営業循環過程の内にある資産・負債は、流動資産・流動負債とするという基準です。正常営業循環過程とは、次のようなサイクルをいいます。
① 商業
現金預金→仕入(買掛債務)→売上(売上債権)→現金預金
② 製造業(メーカー)
現金預金→原材料(買掛債務)→仕掛品→製品→売上(売上債権)→現金預金
② 1年基準(ワン・イヤー・ルール)
1年基準とは、決算日の翌日から1年以内に回収・支払・費用化される資産・負債は流動資産・流動負債とし、1年を超えるものは固定資産・固定負債とするという基準です。たとえば、決算日が×1年3月31日とすると、×2年3月31日までが1年以内です。
また、1年という基準は決算日ごとに見ていくので、返済期限10年の長期借入金も、9年を経過すると流動負債となります。
③ 両基準の優先順位
正常営業循環基準と1年基準とでは、正常営業循環基準の方が優先して適用されます。正常営業循環過程の内にあるものは流動資産・流動負債とされます。正常営業循環過程の外にあるものについては、原則として、1年基準が適用され、1年内ならば流動資産・流動負債、1年を超えるものは固定資産・固定負債とされます。
売掛金などについては、一律に1年という基準によるのではなく、業種・業態による多様性を尊重しているため、正常営業循環基準の方が優先されています。つまり、1年を超える売掛金があっても、正常営業循環過程の内なので、流動資産とされます。
なお、後述しますが、正常営業循環基準と1年基準の例外が、2つあります。
① 有価証券
有価証券は、正常営業循環過程の外にありますが、所有(保有)目的が考慮されます。
② 有形固定資産
有形固定資産は、正常営業循環過程の外にありますが、1年基準は適用されません。
・主な項目の流動と固定の分類
① 企業の主目的たる営業取引により生じた債権債務
受取手形・売掛金・前払金(前渡金)などの債権と支払手形・買掛金・前受金などの債務は、正常営業循環過程の内にあるので、流動資産・流動負債とします。
ただし、これらの債権のうち、破産債権・更生債権・これに準ずる債権は、正常営業循環過程の外にあるとみなされるので、1年基準が適用され、1年以内に回収されないことが明らかなものは固定資産とします。
② 企業の主目的以外の取引により生じた債権債務
未収入金(未収金)・貸付金・差入保証金などの債権と未払金・借入金・受入保証金などの債務は、正常営業循環過程の外にあるので、1年基準が適用されます、すなわち、1年以内に入金・支払の期限が到来するものは流動資産・流動負債とし、1年を超えて期限が到来するものは固定資産・固定負債とします。
③ 現金預金
現金は、正常営業循環過程の内にあるとみなして、流動資産とします。預金は、決算日の翌日から1年以内に期限が到来するものは、正常営業循環過程の内にあるとみなして、流動資産とします。預金で期限が1年を超えるものは、正常営業循環過程の外にあるとみなして、固定資産とします。
④ 有価証券
有価証券は、正常営業循環過程の外にありますが、所有(保有)目的と1年基準によります。すなわち、①売買目的有価証券、②1年内に満期の到来する債券、③1年内に処分する親会社株式は、流動資産とします。それ以外のものは、固定資産とします。
⑤ 経過勘定
経過勘定は、正常営業循環過程の外にあるので、1年基準が適用されます。
企業会計原則は、前払費用についてだけ1年基準の適用を明言しています。「中小企業会計指針」では、前払費用と前受収益に1年基準の適用を明言しています。現実的にあり得ないとしても、理論的には、すべての経過勘定に1年基準が適用されると解すべきだと思います。
⑥ 棚卸資産
商品・製品・半製品・原材料・仕掛品などの棚卸資産は、正常営業循環過程の内にあるので、流動資産とされます。
⑦ 有形固定資産
有形固定資産は、正常営業循環過程の外にあり、固定資産とされます。有形固定資産は、本来、企業がその営業目的を達成するために長期間所有し加工・売却を予定しないものなので、その資産としての性格上、固定資産とされます。
有形固定資産は正常営業循環過程の外にありますが、例外的に、1年基準は適用しません。すなわち、残存耐用年数が1年以下となっても、1年内に売却・除却するとは限らないので、そのまま固定資産とします。
※本稿は、次の拙著を加筆修正したものです。
寺田誠一著 『ファーストステップ会計学 第2版』東洋経済新報社2006年 「第3章 決算書の表示 2 貸借対照表の表示 3 流動と固定の分類基準」
※このウェブサイトの趣旨については、「ご挨拶」参照。