「一括償却資産の会計と税務…法人税申告書と固定資産税」
2025年(令和7年)4月12日
公認会計士・税理士 寺田 誠一
・減価償却資産の取得価額別の各種処理
固定資産(減価償却資産)のうち、取得価額が10万円未満のものについては、税務上(法人税・所得税)、一時(いちじ)の損金算入(勘定科目は、消耗品費など)が認められています。その場合、固定資産ではないので、固定資産税は課税されません。
10万円以上のものについては、原則、固定資産計上して減価償却していくことになります(固定資産税も課税されます(※)。税率1.4%)。
※:固定資産税は市町村ごとの課税で、免税点があり、1市町村あたり150万円未満は課税されません。したがって、当初は課税されても、償却が進んでいくと課税されなくなる場合もあります。
ただし、固定資産計上の例外が2つあります。
① 少額減価償却資産(中小企業等の少額特例)
青色申告を行っている従業員500人以下の中小企業(資本金1億円以下)等に限って適用可能です。固定資産(減価償却資産)のうち30万円未満のものについて、一時の損金算入(勘定科目は消耗品費など)が可能という制度です(1事業年度300万円まで)(※1)。
この中小企業等の少額特例を適用しても、固定資産税は課税されます。
② 一括償却資産(3年一括償却の特例)
どの企業も、適用可能です。固定資産(減価償却資産)のうち、取得価額が20万円未満のものについて、3年一括償却という制度を選択することができます(※1)。20万円未満の任意(※2)の各資産を個別管理しないで合算して、耐用年数に関係なく、取得(事業の用に供した)年度を含めて、3年間で1/3(※3)ずつ均等に損金に計上していくものです。取得年度も、月割計算しないで、1年分の損金が認められます。
この制度は、10万円未満の一時の損金算入可能制度のいわば延長戦上の制度です。違いは、一時ではなく、3年間でという点です。したがって、この3年一括償却制度を適用した場合には、固定資産税は課税されません。すなわち、固定資産税の節税になります。
※1:貸付資産(リース資産)は、少額減価償却資産と一括償却資産の対象とはなりません(ただし、主要な事業が貸付業(リース業)である場合を除きます。)。つまり、主要な事業が貸付業でない場合の貸付資産は、これらの制度の対象となりません。
※2:ある20万円未満の資産について、固定資産計上するか、3年一括償却するか、さらに中小企業等では一時の損金とするかは、その企業の自由です。
※3:12か月に満たない事業年度がある場合には、その事業年度の月数/36か月となります。
3年一括償却を適用した場合には、途中で売却・廃棄しても、その時点で売却損・除却損を計上することはできなく、規則的・均等に3年間の損金を続けていきます。
一括償却資産で3年の償却を選択した資産については、次年度以降、通常の減価償却計算に変更することはできません。
仕訳をするとき、資産の勘定科目は「一括償却資産」とします。貸借対照表の表示は、有形固定資産や無形固定資産の該当項目に含めます(通常は、工具器具備品が多いと思われます。)。
非常にレアケースですが、10万円未満のものについても、固定資産計上は可能ですが、その場合、固定資産税が課税されます。また、10万円未満であっても、3年一括償却制度を選択することもできますが、その場合には、固定資産税は課税されません。
以上のことを表にまとめると、次のとおりです。
|
法人税・所得税 |
固定資産税 |
10万円未満 |
一時の損金 |
✕ |
|
3年一括償却 |
✕ |
|
固定資産・減価償却 |
〇 |
10万円以上20万円未満 |
(中小企業)一時の損金 |
〇 |
|
3年一括償却 |
✕ |
|
固定資産・減価償却 |
〇 |
20万円以上30万円未満 |
(中小企業)一時の損金 |
〇 |
|
固定資産・減価償却 |
〇 |
30万円以上 |
固定資産・減価償却 |
〇 |
〇:固定資産税の課税対象、✕:固定資産税の課税対象外
この表について、コメントしておきます。
まず、10万円未満の場合には、一時の損金とします。
10万円以上20万円未満の場合には、中小企業等で一時の損金が可能ならばそれを選びます。会計処理の簡便さや早期の損金計上による法人税・所得税の節税というメリットがあります。デメリットは固定資産が課税されることですが、低い税率と免税点があることを考えると、それほど負担にはならないと思われます。
10万円以上20万円未満で中小企業等の一時損金に該当しない場合には、3年一括償却を選ぶ方がよいでしょう。3年一括償却は、定額法・期首取得・耐用年数3年・残存価額0の減価償却と計算が同じであり、非常に簡便です。3年は、各資産の個々の耐用年数より短いことが多いと思われるので、通常の減価償却よりも損金計上が早くなります。固定資産税も課税されません。
10万円以上20万円未満で、中小企業等の一時の損金と3年一括償却のいずれも選択しない場合には、通常の固定資産計上・減価償却となります。
20万円以上30万円未満の場合には、中小企業等で一時の損金が可能ならばそれを選びます。該当しなければ、通常の固定資産計上・減価償却となります。
30万円以上の場合には、通常の固定資産計上・減価償却となります。
・一括償却資産の会計処理
さて、一括償却資産の会計処理には、次の2とおりの方法があります。
① 決算調整方式
その年度の一括償却資産に計上したものを集計し、各年度の決算整理で1/3ずつを減価償却費計上します。会計上の仕訳で完結し簡便なので、通常、この処理が採られると思います。また、個人事業は、法人税申告書がないので申告調整方式が採れず、必然的に決算調整方式によることになります。
したがって、決算調整方式が原則的処理と考えてよいと思います
② 申告調整方式
一括償却資産を消耗品費などに全額計上し、各年度の税務上の所得が決算調整方式と同じ結果になるように、法人税申告書で調整します。
申告調整方式は、法人税申告書の記入が必要となり手数がかかるので、例外的処理と考えられます。
(設例)
✕1年の期中に、165,000円(うち消費税15,000円)の車両(バイク)を現金で購入した。また、期中に132,000円(うち消費税12,000円)の器具備品(パソコン)を現金で購入した。3年一括償却制度を適用することとした。✕2年に、車両を88,000円(うち消費税8,000円)で売却し現金を受け取った。3年間の税抜経理方式(消費税別記入力)の仕訳は、どのようになりますか。
(第1法)決算調整方式
✕1年:(借)一括償却資産 150,000 (貸)現 金 165,000
仮払消費税 15,000
(借)一括償却資産 120,000 (貸)現 金 132,000
仮払消費税 12,000
(借)減価償却費 90,000 (貸)一括償却資産 90,000
✕2年:(借)現 金 88,000 (貸)固定資産売却益 80,000
仮受消費税 8,000
(借)減価償却費 90,000 (貸)一括償却資産 90,000
✕3年:(借)減価償却費 90,000 (貸) )一括償却資産 90,000
(第2法)申告調整方式
✕1年:(借)消耗品費 150,000 (貸)現 金 165,000
仮払消費税 15,000
(借)消耗品費 120,000 (貸)現 金 132,000
仮払消費税 12,000
✕2年:(借)現 金 88,000 (貸)固定資産売却益 80,000
仮受消費税 8,000
✕3年:仕訳なし
第2法(申告調整方式)を採った場合の、各期の法人税申告書を示してみます。
第✕1期の別表四
区 分 |
総 額 |
処 分 |
||
留 保 |
社外流出 |
|||
当期利益 |
|
|
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|
加算 |
一括償却資産否認 |
180,000 |
180,000 |
|
減算 |
|
|
|
|
所得金額 |
|
|
|
第✕1期の別表五(一)
区 分 |
期首利益積立金 |
当期の増減 |
翌期首利益積立金 |
|
減 |
増 |
|||
一括償却資産 |
|
|
180,000 |
180,000 |
|
|
|
|
|
第✕2期の別表四
区 分 |
総 額 |
処 分 |
||
留 保 |
社外流出 |
|||
当期利益 |
|
|
|
|
加算 |
|
|
|
|
減算 |
一括償却資産認容 |
90,000 |
90,000 |
|
所得金額 |
|
|
|
第✕2期の別表五(一)
区 分 |
期首利益積立金 |
当期の増減 |
翌期首利益積立金 |
|
減 |
増 |
|||
一括償却資産 |
180,000 |
90,000 |
|
90,000 |
|
|
|
|
|
第✕3期の別表四
区 分 |
総 額 |
処 分 |
||
留 保 |
社外流出 |
|||
当期利益 |
|
|
|
|
加算 |
|
|
|
|
減算 |
一括償却資産認容 |
90,000 |
90,000 |
|
所得金額 |
|
|
|
第✕3期の別表五(一)
区 分 |
期首利益積立金 |
当期の増減 |
翌期首利益積立金 |
|
減 |
増 |
|||
一括償却資産 |
90,000 |
90,000 |
|
0 |
|
|
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第1法(決算調整方式)では、✕1年度の一括償却資産の計上額合計が270,000円なので、各年度の決算整理でその1/3の90,000円を減価償却費として計上します。
第2法(申告調整方式)では、一括償却資産を消耗品費に全額計上し、税務上、第1法と同じ結果になるように、各年度の法人税申告書で調整します。
具体的には、第✕1期の損金は90,000円です。しかし、第2法では消耗品費を270,000円計上しているので、申告書で利益に180,000円プラスします。その結果、税務上の所得は、第1法と同じ90,000円になります。
第✕2期と✕3期の損金も、それぞれ90,000円です。しかし、会計上は費用計上がないので、申告書で利益から90,000円マイナスします。
X2年のように売却除却があっても、個々の資産の減価償却は行わないので、第1法・第2法いずれも、売却損除却損は計上されません。
※このウェブサイトの趣旨については、「ご挨拶」参照。