「NPO法人の会計基準」

 

2020年(令和2年)7月16日(最終更新2025年4月13日)

寺田 誠一(公認会計士・税理士)

 

 

・NPO法人の決算書

 

 NPO(Non Profit Organization)とは、さまざまな社会貢献活動を行い、団体の構成員に対し収益を分配することを目的としない団体の総称です。NPOは、収益を目的とする活動を行うこと自体は認められますが、事業で得た収益は社会貢献活動に充当することが予定されています。

 そして、「NPO法人(正式には、特定非営利活動法人)」とは、特定非営利活動促進法に基づいて法人格を取得した法人をいいます。NPO法人は、所轄庁(都道府県または政令指定都市)の関与を最小限にして、法人運営の自主独立性が尊重されています。その代わり、決算書の閲覧などの情報公開が必要とされている点が特徴です。

 NPO法人は、事業年度終了後3か月以内に、決算書などを所轄庁に提出する必要があります。NPO法人の決算書は、特定非営利活動促進法の改正(2012年4月1日施行)により、活動計算書と貸借対照表という構成になりました。活動計算書は、企業の損益計算書に相当するものです。従来は、収支計算書と貸借対照表という構成でした。この変更は、NPO法人の会計が、収支計算から損益計算へと大きく体系が変わったことを意味します。

 他に、所轄庁へ提出する書類は、事業報告書、財産目録、役員名簿、10名以上の社員名簿です。財産目録は、資産・負債について、貸借対照表よりも詳しく、内容・数量などまでも記した書類です。財産目録は、決算書を補完する書類という位置づけになっています。10名以上の社員名簿とは、社員(正会員)が10名以上いることを確認するため、社員(正会員)のうち10名以上を選び住所・氏名を記載した書類です。

 

 従来、NPO法人の会計基準がなかったため、収支計算書や貸借対照表の形式・内容がまちまちでした。そのため、記載内容の不備やNPO法人間の比較が困難などの問題点がありました。そこで、NPO法人会計基準協議会より、2010年7月20日に(2011年11月20日、2017年12月12日に一部改正)、NPO法人会計基準が公表されました(本稿では、NPO法人会計基準の原文は記載していませんので、インターネットなどでご覧ください。)。

 NPO法人会計基準協議会とは、NPO法人会計基準を作るため、NPO法人の実務担当者、公認会計士、税理士、学者などから結成された任意団体です。官庁の主導ではなく、純粋に民間の集まりである点が特徴です。

 

 

・NPO法人会計基準の主な特徴点

 

① 概要

 

 企業の損益計算書にあたるものを、NPO法人では活動計算書と呼びます。NPO法人は利益を直接の目的とするものではなく、決算書は活動の内容を示すものという考えからです。

 活動計算書は、まず経常収益・経常費用と経常外収益・経常外費用とに分けます。経常外収益・経常外費用とは、臨時損益や過年度損益修正です。NPO法人では、経常外収益・経常外費用は存在しないことも多いと思われます。その場合にはそれらの区分は不要です。

 さらに、活動計算書では、経常費用を事業費と管理費とに分けます。事業費とは、そのNPO法人が目的とする事業を行うために直接用要する人件費その他の費用をいいます。管理費とは、事業を支えるための総務・経理・人事・労務などに関する費用をいいます。

 損益計算書の当期純利益にあたるものを、NPO法人では当期正味財産増減額と呼びます。また、貸借対照表の純資産の部にあたるものを、NPO法人では正味財産の部と呼びます。

 

② 区分表示と勘定科目

 

 活動計算書の経常収益は、NPO法人の通常の活動から生じる収益で、①受取会費、②受取寄付金、③受取助成金等、④事業収益、⑤その他収益の5つに区分して表示します。

 

 受取会費は、確実に入金されることが明らかな場合を除き、実際に入金したときに収益として計上します。NPO法人の会費は、強制的に徴収することが難しいものだからです。また、受取寄付金も、確実に入金されることが明らかになった場合に、収益として計上します。これらは、NPO法人の性格上、通常の企業会計の収益計上よりも、保守的となっています。

 

 経常費用は、NPO法人の通常の活動に要する費用で、事業費と管理費の2つに区分します。そして、それぞれさらに人件費とその他経費に分ける点が大きな特徴です。NPO法人は、人の活動が大きなウエイトを占めているので、人件費のコストを明示しようという趣旨です。

 

 経常費用の内訳の変更を示してみると、次のとおりです(収支計算書の××事業費には、業務委託費が含まれているものとします。)。

  

 収支計算書の事業費では具体的にどのような費用がかかったのかが明らかでないため、事業費も管理費と同様、通常の形態別分類(通信運搬費、地代家賃、消耗品費、旅費交通費…)が採られました。

 すると今度は、活動計算書では、事業の種類ごとの経費が明らかになりません。そこで、それを補うため、事業の種類ごとに事業費の内訳を注記することができます。

 事業費と管理費を区分するにあたっては、共通的に発生する経費を従事割合や面積割合など適切な基準で按分する必要があります。

 また、収支計算書には、収益・費用以外に、固定資産や借入金の増減が記載されます。資金の増減です。それに対して、活動計算書では、固定資産や借入金の増減の内訳が不明となるので、NPO会計基準ではそれらを注記することとしています。

 

③ 無償等で物的サービスの提供を受けた場合

 

 NPO法人は、関係者の好意で、土地、建物、車などを無償または著しく低い価格で提供されるという物的サービスの支援を受けることがあります。これは、家賃や賃借料相当額を寄付してもらったのと同じことになります。

 この場合は、次の3つの方法があります。実際には、原則的方法である簡便な第1法を選ぶ法人が圧倒的に多いと思われます。ただし、少数でしょうが、金額換算して公表したいと考える法人は、第2法または第3法を選ぶことができます。

 

第1法:決算書に計上しない方法

 無償等で提供された物的サービスについては、特に会計上の処理や決算書への計上は行いません。これが原則的な方法です。ただし、事業報告書にその事実を記載することが望まれます。

 

第2法:注記する方法

 注記だけ記載し、決算書には計上しない方法です。提供された物的サービスの金額を「合理的に算定できる場合」には、第2法を選ぶことができます。「合理的」とは、決算書の作成者が利用者に対してその金額評価の根拠について十分説明可能であることをいいます。具体的には、①信頼できる集計のしくみと、②金額換算のための単価の使用が必要となります。

 

第3法:決算書に計上する方法

 活動計算書に計上し、注記にも記載する方法です。物的サービスの金額を外部資料等により「客観的に把握できる場合」には、第3法を選ぶこともできます。「客観的」とは、単価の使用について誰もが入手できる具体的な外部資料が存在することをいいます。

 たとえば、無償または著しく低い価格で施設を借りたとき、第3法を選んだ場合には、その会計方針や算定方法を注記するとともに、活動計算書の経常収益の部に「施設等受入評価益」、経常費用の部に「施設等評価費用」という科目で、両建て表示します(金額は同額)。

 

④ ボランティアによる役務の提供

 NPO法人は、ボランティアによる無償または著しく低い価格での労力に支えられていることが通例です。また、ボランティアの労力を金額評価しないことにより、NPO法人の活動規模が過小評価されてしまうという問題点もあります。

 そこで、原則的な金額換算しない方法に加え、金額換算する第2法、第3法が認められました。

 

第1法:決算書に計上しない方法

 ボランティアによる役務の提供について、特に会計上の処理や決算書への計上は行いません。ただし、事業報告書に活動の内容を記載することが望まれます。

 

第2法:注記する方法

 ところで、ボランティアによる役務の提供を金額換算する場合は、「活動の原価の算定に必要な受入額」に限られます。この取扱いは、活動の本来の適正なコストを明らかにするという趣旨なので、必要な労力を超えてボランティアを受け入れた場合には、その超えた部分は計上できません。

 そして、ボランティアによる役務の提供の金額を「合理的に算定できる場合」には、注記だけ記載し、決算書には計上しない第2法を選ぶことができます。

 

第3法:決算書に計上する方法

 ボランティアによる役務の提供の金額を「客観的に把握できる場合」には、注記をするとともに活動計算書に計上することができます。

 活動計算書に計上する場合には、経常収益の部に「ボランティア受入評価益」、経常費用の部に「ボランティア評価費用」の科目で、両建て表示します(金額は同額)。

 

⑤ 使途が制約されている寄付金等

 

 NPO法人には、「○○のために使ってください」というように、使途が指定されている寄付金があります。また、補助金や助成金も、一般的に使途が指定されています。このようなものも活動計算書の収益に計上されますが、実際に使うのは翌期以降だとすると、資金が余っているかのような誤解を与えてしまうおそれがあります。したがって、このような場合、2つの方法があります。

 

第1法:注記する方法

 原則は、使途に制約がある寄付金等については、使途ごとに、期首残高、受入金額、減少額、期末残高を注記します。

 

 

期首残高

当期増加額

当期減少額

期末残高

備考

○○事業

××事業

×××

×××

×××

×××

×××

×××

×××

×××

 

合計

×××

×××

×××

×××

 

 

 2法:決算書に計上する方法

 

第2法:決算書に計上する方法

 重要性が高い場合には、注記ではなく、決算書本体に表示することとされています。具体的には、貸借対照表の正味財産の部を、指定正味財産と一般正味財産に区分します。また、活動計算書を一般正味財産増減の部と指定正味財産増減の部に区分します。そして、重要性が高いと判断される使途が制約された寄付金等を受入れた場合には、活動計算書の指定正味財産増減の部に表示するとともに、その資産は貸借対照表の指定正味財産の部に表示します。

 

 

・移行にあたって(活動計算書の「前期繰越正味財産額」)

 

 NPO法人会計基準は、簡便な表示から詳細な表示までいろいろ認められているので、法人の規模・内容によって使い分けることができます。したがって、この基準は、次第に普及していくものと期待されます。

 さて、所轄庁への提出は、当分の間は、活動計算書ではなく収支計算書でも可とされています。もちろん、早めに移行することが望ましいです。

 移行するにあたっては、貸借対照表と財産目録は変更ありません(それらの様式をNPO法人会計基準に準拠したものに変えるという作業はあるかもしれませんが。)。

 問題は、活動計算書です。移行初年度においても、活動計算書自体は当期の収益・費用を計上すればよいのですが、活動計算書の下部の「前期繰越正味財産額」は注意が必要です。ここに計上される金額は、前期末収支計算書の「次期繰越収支差額」ではなく、前期末貸借対照表の「正味財産合計」となります。

活動計算書の「前期繰越正味財産額」≠前期末収支計算書の「次期繰越収支差額」

活動計算書の「前期繰越正味財産額」=前期末貸借対照表の「正味財産合計」

 

 

※本稿は、次の拙稿を加筆修正したものです。

寺田誠一稿『会計と税務の交差点スッキリ整理! 第17回 「NPO法人の会計」の基準確立』月刊スタッフアドバイザー 2012年(平成24年)12月号

 

 

※収支計算書と活動計算書については、「公益法人・NPO法人等の収支計算書と活動計算書の違い(設例)」参照。

※NPO法人の法人税については、「NPO法人の法人税」参照。

※公益法人・NPO法人等の消費税については、「非営利法人の消費税…特定収入の設例」参照。

※このウェブサイトの趣旨については、「ご挨拶」参照。