「未払法人税等を未計上・計上・概算計上の申告書設例」

 

2021年(令和3年)9月6日(最終更新2022年5月1日)

寺田 誠一(公認会計士・税理士)

 

 

 同じ条件で、法人税申告書別表四と五(一)が、どのように異なるかを見て行きたいと思います。

設例1:未払法人税等の計上を行わない場合

設例2:未払法人税等の計上を正確に行う場合

設例3:未払法人税等の計上を概算で行う場合

 

 

・設例1(未払法人税等の計上を行わない場合)

 

(設例1)

 第1期の内容が、次のとおりであったとする。第1期で未払法人税等の計上は行わない。金額の単位省略(以下、同じ)。

 

当期純利益5,000  したがって、繰越利益剰余金も5,000

(法人税(地方法人税を含む。)1,000)

(法人県民税30)

(法人市民税70)

(法人事業税(特別法人事業税を含む。)300)

(したがって、法人税等合計1,400)

 

 第2期の内容が、次のとおりであったとする。第2期において、第1期の法人税等1,400を納付した。第2期の税金はないものとする(中間納付額もないものとする。均等割も無視。)。

 

税引前当期純損失2,600

法人税等1,400(第1期分)

当期純損失4,000(法人税等納付後)

繰越利益剰余金1,000(第1期当期純利益5,000-第2期当期純損失4,000)

 

 第1期と第2期の別表四と五(一)は、どのようになりますか。

 

設例1 第1期の別表四

       

  

       

  

社外流出

当期利益

5,000

5,000

 

加算

 

 

 

 

減算

 

 

 

 

所得金額

5,000

5,000

 

 

設例1 第1期の別表五()

     

期首利益積立金

当期の増減

翌期首利益積立金

    減

    増

 

 

 

 

 

繰越損益金

 

 

5,000

5,000

納税充当金

 

 

 

 

未納法人税()

        1,000      

     1,000

未納道府県民税

       30

     30

未納市町村民税

           70

    70

合計額

 

 

3,900

3,900

※現在の正式名称は、「未納法人税及び未納地方法人税」ですが、略しました(以下、同じ。)。

 

設例1 第2期の別表四

       

  

       

  

社外流出

当期利益

4,000

4,000

 

加算

損金経理法人税

1,000

1,000

 

損金経理県市民税

100

100

 

減算

 

 

 

 

所得金額

2,900

2,900

 

 

設例1 第2期の別表五()

     

期首利益積立金

当期の増減

翌期首利益積立金

    減

    増

 

 

 

 

 

繰越損益金

5,000

5,000

     1,000

1,000

納税充当金

 

 

 

 

未納法人税

△    1,000

     1,000

未納道府県民税

△    30

△    30

未納市町村民税

△    70

△    70

合計額

3,900

3,900

1,000

1,000

 

 

 別表四の留保と、別表五(一)の網掛けの部分とは、対応しており、同じ額となります。第1期では、別表四の留保と別表五(一)の網掛けの部分はともに5,000で、一致しています。第2期も△2,900で、両者は一致しています(第2期の別表五(一)では、増1,000-減3,900=△2,900となります。)。

 

 第1期の抽象的・観念的な未納法人税・未納県民税・未納市民税1,100は、別表五(一)で利益積立金のマイナスと見ます。

 この1,100は、網掛けとなっておらず、別表四の留保とは対応しません。対応させると、別表四で減算することになりますが、そうすると、法人税・法人県民税・法人市民税の租税債務の発生を損金に算入することになってしまいます。

 なお、法人事業税は、利益積立金のマイナスとは見ません。翌期の損金となります。設例1の第2期別表四では、法人事業税300を加算していません。つまり、損金になっているということです。

 

 第2期では、未納法人税・未納県民税・未納市民税1,100を納付しているので、別表五(一)でマイナスの利益積立金が消滅(解消)しています(△印の減です)。

 

 

・設例2(未払法人税等の計上を正確に行う場合)

 

(設例2)(設例1との相違点を記載)

 第1期において、未払法人税等1,400の計上を行うこことする。したがって、第1期の利益は次のようになる。

税引前当期純利益5,000

法人税等1,400

当期純利益3,600 したがって、繰越利益剰余金も3,600

 

 第2期の利益は、次のようになる。

当期純損失2,600  

繰越利益剰余金1,000(第1期当期純利益3,600-第2期当期純損失2,600)

 

 第1期と第2期の別表四と五(一)は、どのようになりますか。

 

 設例2 第1期の別表四

       

  

       

  

社外流出

当期利益

3,600

3,600

 

加算

損金経理納税充当金

1,400

1,400

 

減算

 

 

 

 

所得金額

5,000

5,000

 

 

設例2 第1期の別表五()

     

期首利益積立金

当期の増減

翌期首利益積立金

    減

    増

 

 

 

 

 

繰越損益金

 

 

3,600

3,600

納税充当金

 

 

1,400

1,400

未納法人税

        1,000      

     1,000

未納道府県民税

       30

         30

未納市町村民税

           70

     70

合計額

 

 

3,900

3,900

 

設例2 第2期の別表四

       

  

       

  

社外流出

当期利益

2,600

2,600

 

加算

 

 

 

 

減算

納税充当金支出事業税

300

300

 

所得金額

2,900

2,900

 

 

設例2 第2期の別表五()

     

期首利益積立金

当期の増減

翌期首利益積立金

    減

    増

 

 

 

 

 

繰越損益金

3,600

3,600

   1,000

1,000

納税充当金

1,400

1,400

 

 

未納法人税

△    1,000

   1,000

未納道府県民税

△     30

△     30

未納市町村民税

△     70

△     70

合計額

3,900

3,900

1,000

1,000

 

 

 設例2の第1期は、未払法人税等(納税充当金)を正確に計上する方法です。申告書はまず、設例1と同じように、別表四の一番上の当期利益に5,000を記載して、税額の計算を行います。法人税・法人県民税・法人市民税・法人事業税の合計が1,400と算出されたら、次の仕訳を行って決算書を確定します。

(借)法人税等 1,400  (貸)未払法人税等 1,400

 その結果、当期純利益は3,600となります。それに伴い、別表四の当期利益には3,600記入し、加算項目として損金経理納税充当金に1,400記入します。法人事業税も、未払計上は損金とならないので、1,400全額を加算することになります。

 設例1と設例2の第1期の別表四を比べると、設例1の当期利益5,000が、設例2では当期利益3,600と損金経理納税充当金1,400の2つに分かれたと見ることができます。

 

 設例2の第2期ですが、法人税等の納付時に次の仕訳を行います。

(借)未払法人税等 1,400 (貸)現金預金 1,400

 負債である未払法人税等を取崩しているので、会計上は、費用としては計上されていません。そこで問題になるのが、法人事業税(特別法人事業税を含みます。)です。法人事業税は、支払った年度で損金算入されます。そのため、別表四の納税充当金支出事業税に300記入して減算することにより、損金に計上します。

 

 設例2・第2期の別表五(一)では、納税充当金1,400の減を認識しますが、このうち事業税分300は別表四の減算額と対応します。その他の納税充当金の減1,100は、別表五(一)の下部の未納法人税・未納県民税・未納市民税△1,100の減少と相殺され0となります(別表四の加算減算はないので、別表四とは対応しません。)。納税充当金という利益積立金の減と、未納法人税等というマイナスの利益積立金の減で、相殺されるということです。

 

 設例2・第2期の別表五(一)繰越損益金の行では、期首3,600の減と期末計上分1,000の増で、合わせて2,600の減となり、別表四の当期利益(=損益計算書の当期純利益)△2,600と対応します。

 

 

・設例3(未払法人税等の計上を概算で行う場合)

 

(設例3)(設例1・設例2との相違点を記載)

 

 第1期において、未払法人税等の概算額1,200を計上することとする。したがって、第1期の利益は次のようになる。

税引前当期純利益5,000

法人税等1,200

当期純利益3,800 したがって、繰越利益剰余金も3,800

 

 第2期において、未払法人税等の概算額1,200と実際額1,400との差額200を支払うものとする。したがって、第2期の利益は次のようになる。

税引前当期純損失2,600

法人税等200

当期純損失2,800

繰越利益剰余金1,000(第1期当期純利益3,800-第2期当期純損失2,800)

 

 第1期と第2期の別表四と五(一)は、どのようになりますか。

 

 設例3 第1期の別表四

       

  

       

  

社外流出

当期利益

3,800

3,800

 

加算

損金経理納税充当金

1,200

1,200

 

減算

 

 

 

 

所得金額

5,000

5,000

 

 

設例3 第1期の別表五()

     

期首利益積立金

当期の増減

翌期首利益積立金

    減

    増

 

 

 

 

 

繰越損益金

 

 

3,800

3,800

納税充当金

 

 

1,200

1,200

未納法人税

      1,000      

    1,000

未納道府県民税

      30

      30

未納市町村民税

          70

    70

合計額

 

 

3,900

3,900

 

設例3 第2期の別表四(その1

       

  

       

  

社外流出

当期利益

2,800

2,800

 

加算

損金経理法人税

200

200

 

減算

納税充当金支出事業税

300

300

 

所得金額

2,900

2,900

 

 

設例3 第2期の別表四(その2

       

  

       

  

社外流出

当期利益

2,800

2,800

 

加算

 

 

 

 

減算

納税充当金支出事業税

100

100

 

所得金額

2,900

2,900

 

 

  

設例3 第2期の別表五()

     

期首利益積立金

当期の増減

翌期首利益積立金

    減

    増

 

 

 

 

 

繰越損益金

3,800

3,800

   1,000

1,000

納税充当金

1,200

1,200

 

 

未納法人税

△    1,000

   1,000

未納道府県民税

△     30

△     30

未納市町村民税

△     70

△     70

合計額

3,900

3,900

1,000

1,000

 

 設例3の第1期は、未払法人税等(納税充当金)を概算で計上する方法です。

(借)法人税等 1,200  (貸)未払法人税等 1,200

 正確に未払法人税等を計上した設例2に比べ、設例3は未払法人税等が200少ないので、逆に当期純利益は200多くなります(設例に即していえば、当期純損失が200少なくなります。)。結局、別表四で、設例2の当期利益3,600と損金経理納税充当金1,400を合算した額と、設例2の当期利益3,800と損金算入納税充当金1,200を合算した額は、いずれも5,000で、設例1と同じになります。

 

 設例3の第2期は、法人税等の支払時に次の仕訳が行われます。

(借)未払法人税等 1,200  (貸)現金預金 1,400

   法人税等      200

 つまり、未払法人税等の計上が200少なかったので、その分、第2期で費用処理します。この200は法人税が少なかったとするのが(その1)であり、法人事業税が少なかったとするのが(その2)です。

 

 設例3・第2期(その1)は、費用で支払った200の内容が法人税であるという場合です。この場合には、法人税は、税務上、損金不算入なので、別表四で加算します。一方、当期利益は200の費用処理があるので、設例2の△2,600から200減少した2,800となります。結局、設例2の当期利益△2,600が、設例3(その1)では当期利益△2,800と損金経理法人税200とに分かれたと見ることができます。

 

 設例3・第2期の別表五(一)では、概算の納税充当金1,200の減を認識しますが、このうち事業税分300は(その1)別表四の減算額と対応します。それ以外の納税充当金の減900は、別表五(一)の下部の未納法人税等の減のうち△1,100と相殺します((その1)別表四とは対応しません。)。すると、未納法人税等の減△200が残りますが、これは(その1)別表四の損金経理法人税の加算200と対応します。

 

 設例3・第2期(その1)の別表五(一)繰越損益金の行では、期首3,800の減と期末計上分1,000の増で、合わせて2,800の減となり、別表四の当期利益(=損益計算書の当期純利益)△2,800と対応します。

 

 設例3・第2期(その2)は、費用で支払った200の内容が法人事業税であるという場合です。この場合には、法人事業税は、税務上、損金算入ですから、別表四で加算する必要はありません。その代わり、未払法人税等に計上してある事業税は300ではなく100なので、別表四で減算される納税充当金支出事業税は100となります。結局、(その1)の別表四の加算項目の損金経理法人税の200と減算項目の損金経理納税充当金300が相殺され、(その2)では損金経理納税充当金100が計上されていると見ることができます。

 

 設例3・第2期の別表五(一)では、概算の納税充当金1,200の減少を認識しますが、このうち事業税分100は(その2)別表四の減算額と対応します。それ以外の納税充当金の減少1,100は、別表五(一)の下部の未納法人税等△1,100の減少と相殺されます((その2)別表四とは対応しません。)。

 

・まとめ

  

 

 

当期純利益

=当期利益

所得金額

 

法人税等

=未払法人税等

=納税充当金

繰越利益剰余金期末残

=繰越損益金期末残

利益積立金期末残

設例1

1

5,000

5,000

0

5,000

3,900

2

4,000

2,900

0

1,000

1,000

設例2

1

3,600

5,000

1,400

3,600

3,900

2

2,600

2,900

0

1,000

1,000

設例3

1

3,800

5,000

1,200

3,800

3,900

2

2,800

2,900

0

1,000

1,000

 

 

  会計上の当期純利益は、未払法人税等をいくら計上するかによって異なってきますが、どのような方法であっても第1期と第2期を合計すれば同じとなります。

設例1:第1期5,000+第2期△4,000=1,000

設例2:第1期3,600+第2期△2,600=1,000

設例3:第1期3,800+第2期△2,800=1,000

 それに対して、税務上の金額を見てみます。設例1~設例3いずれも、別表四最下部の所得金額は、第1期5,000、第2期△2,900で、どの設例も同じです。

 

 次に、別表五(一)ですが、第1期の納税充当金と繰越損益金の期末残高の合計は、次のように、どの方法でも5,000で一致しています。税務は、納税充当金を、正確な額が計上されるとは限らないので、負債とは見ないで、利益積立金と見ます。納税充当金(未払法人税等)を多く立てれば繰越損益金(繰越利益剰余金)は少なくなるし、納税充当金を少なく立てれば繰越損益金(繰越利益剰余金)は多くなるという関係です。どちらも利益積立金に変わりはなく、その内訳が変わるだけです。

設例1:納税充当金0+繰越損益金5,000=5,000

設例2:納税充当金1,400+繰越損益金3,600=5,000

設例3:納税充当金1,200+繰越損益金3,800=5,000

 

 第2期の法人税等は0と仮定しているので、設例1~設例3いずれも、第2期末の繰越利益剰余金は、同じく1,000となります。したがって、第2期の別表五(一)Ⅰの繰越損益金の期末残高も、どの方法であっても1,000となります。

 

 利益積立金の期末残も、どの方法を採っても、第1期は3,900、第2期は1,000で、一致しています。

 

 

 以上まとめると、未払法人税等をいくら計上するかは、会計上の問題です。それによって、公平を重視する税務の金額が異なることはありません。税務上の所得金額・利益積立金額・税額は、未払法人税等の計上額という会計処理の違いによって左右されないということです。税務の論理が、しっかり貫かれていると思います。

 

 

※本稿は、次の拙稿をもとに、大幅に加筆修正したものです。

寺田誠一稿『会計と税務の交差点スッキリ整理! 第1回 「会計」と「税務」の多重構造を理解する!』月刊スタッフアドバイザー 2011年(平成23年)8月号

 

 

※未収還付法人税等(仮払税金)の計上については、「未収還付法人税等を未計上・計上・概算計上の申告書設例」参照。 

※未収還付源泉所得税(仮払税金)の計上については、「未収還付源泉所得税を未計上・計上の申告書設例」参照。

※このウェブサイトの趣旨については、「ご挨拶」参照。